第86章 私たちに何を隠している!

距離がふいに詰まり、鼻先をくすぐったのは、香水の匂いだった。

その瞬間、有岡里穂は全身が強張った。心臓がどくん、どくん、どくん――異様なほど速く跳ねる。とくに阿部蓮太郎の目と真正面からぶつかったとき、息が止まりそうになった。

やがて頭の上に、もう一度そっと手のひらが落ちる。低く落ち着いた声が、ゆっくりと耳に届いた。

「もうすぐ退院できる。だから今は、ちゃんと休め」

その言葉とともに、頭の手が静かに離れていく。止まっていた呼吸が、その瞬間にようやく戻った気がした。

阿部蓮太郎は里穂の病室でしばらく話し相手になり、外がすっかり暗くなってから帰っていった。

帰り際、里穂が阿部婆さんの様...

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